眞馨

つむぐことのは
眞馨 TOP  >  2004年06月

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「…そうか……」

 水晶球に映し出された映像を見て、ジェレアは深いため息をついた。
失望の色と諦めの色がその表情から見て取れた。

「仕方ない事なのか?」

 ジェレアは呟いた。そして一人沈黙する。暑いけでもないのに、
汗がたらりと落ちた。
汗を拭く気にもなれない。たらりたらりと汗が落ち続けた。

 水晶球には未来が移されていた。星の神霊の力を借りて、未来を映像として見る。
星の神霊は存在すら疑わしいとまで言われている程、契約を結ぶに難しい神霊だ。

 未来を見る。それは魔術では最高とまで言えるものである。
最初の魔術師にして最高の魔術師であるジェレアだからこそ、
行うことが出来る事だった。

 そして、それを知ってしまったのである。

「――どうしたのですか?」

 ジェレアがハッとして後ろを見た。そこには一人の女性が立っていた。

「どうか…したのですか?お父様……」

 女性はそう聞くが、ジェレアの表情を見て何か良くないことを見た、
とすぐに感じ取っていた。ジェレアは汗も拭かずにまだ若い娘を見、
そして言った。

「お前に娘が生まれる」

 ジェレアはそう言ってもなお、冷や汗をたらしたままだった。

「それが…?」

「その娘が生まれ…わしらが滅びる運命と出たのだ」

 ジェレアはあっさりと言った。

「そんな…!」

「嘘ではない。運命は避けられないのだ」

「ならば、私が…」

「いや、お前は子供を生む。それは運命なのだ。
……実を言えば、わしも信じられずにもう一度、未来を見ていたのだ。

 やはり、運命は変わらない………」

 ジェレアは頭を左右に振った。

「お前の娘には力がある。それは、この世界を司る力でもあるし、
恐怖に陥れる力でもある。多くの人間がその力を求めようとするだろう。

 …わしらはそれに巻き込まれる。もうそれは運命でしかないのだ」

「…私の娘が……」

「ディヴァにある赤子を任せてある。お前の娘を守るために生まれてきた者だ」

「………………」

「……娘よ」

 何も言えなくなっている娘にジェレアは優しく声をかけた。

「お前に娘が生まれることは喜ばしいことではないか。
その娘が争いに巻き込まれてしまうのだ。
わしらはその娘を守るために出来る限りのことをしようではないか…」

「……」

 それでも娘は何も言わなかった。しかし、しばらくしてから、コクンと頷くと、
何も言わずにジェレアの部屋を出ていった。

「これから生まれる孫娘よ…わしはお前が旅立つ所までしか見ることは出来なかった。
出来る限りの事をしようとは思うが、それがどうなるかはわからない。
ただわしに分かったのは『アディア』という言葉のみ…。

 済まぬ、孫娘よ…。お前をディアと名付けよう。
その名が必ずお前を『アディア』へと導くはずだ………」



 先に目覚めたのはディアの方だった。

 ボロボロと流していた涙を拭く。ジェレアの夢を見た。未来を見るジェレアの夢を、
まだ生まれぬ自分に謝るジェレアの姿を。

 まだ、ジェレアが死んでから一週間も経っていない。

「おじいちゃん……」

 ディアはただ泣いた。

 しばらくしてから、ディレンはどうしたのか?とディアはディレを探した。

 ディレンは近くでまだ眠っていた。積み重ねた疲労が一気に来たのだ。
この数日間、ディレンが休めた時は結局の所、
一日も一時も無かったのではないだろうか?
彼はずっとディアを守る為に気を配り、彼女のために戦ったのだから。

「…ディレン………」

 ディアはディレンを抱いて、一言「ありがとう」と呟いた。



「――ディア?」

 声がして、ディアはハッとしてディレンを見た。ディレンはやっと目を覚ました。
ディアが目覚めてからしばらくしてからの事だ。

 ディレンは辺りを見回した。
エインデルヤルの魔力でクレーターとなった集落があるだけだった。
それを見たディレンは良かった、夢じゃなかったんだな、
と一人で安心していた。ディアはまだ涙を浮かべていたが。

「どうした?」

「あ、ううん…夢を見ただけ……」

 ディアはすぐに涙を拭いてディレンにそう言った。
ディレンの方は別にそれ以上聞く気にはなれなかった。なんとなく、だ。
なんとなく聞かないほうがいいだろう。

「…これでやっと仇は取れたけど……」

 ディレンがボソッと呟いた。

「…あれからまだ数日しか経ってねぇんだよなぁ…
何か一年ぐらい旅してる気にまでなったけど…
色んな事がありすぎたからかな………」

 ディレンはそう言ってもう一度辺りを見回す。
そして捜していた物が見つからないのを確認すると、すぐに立ち上がった。

「行こうか、ディア。こんなトコにいたって仕方がないしな……」

「うん…」

 ディアもゆっくり立ち上がった。

 クレーターを昇り終わってから、
ディレンは大地の女神の神官として死者を弔う祈りを捧げた。

「…ごめん、おやっさん。これくらいしか出来なくて…。
あと、ついでにおやっさんの所から色々貰ってくからな……
大事に使うから勘弁してくれよ……」

 ディレンは小さく呟いて、ディアと一緒にロウディスへと歩きはじめた。



 それから2人は、2日間ロウディスの街に滞在し、街を出る準備をしている。
ディレンのダメージも、
傷口なり怪我自体が治っていたので回復するのは早かったのもあるが、
この街を出て行くのは簡単な理由があったからだった。

「この街はやっぱり私達がいるべき場所じゃないと思う……」

「だな。俺達が今やってる事って、こう言う理由でなきゃ、
犯罪でしかないしな…」

 そう言ってディレンも頭をかいた。ラルヴァイの店から、
これから必要な物を貰っていたのだ。そうでなくてもラルヴァイがいなくなっている。
そこにディレンとディアがいたら、まず問題になってしまうだろう。
それに3日前の騒ぎを見ている人がいる。
あの時にディレンとディアの姿を覚えている者もいるだろう。
この2日間では会わなかったが、
この先、会わないという保証はない。

「だけど…」

 ディアがボソリと呟いた。

「何?」

「これから先…私達を受け入れてくれる場所はあるの、かな……」

「……」

 それはディレンにもわからなかった。やっぱり…と思いながら、
ディアはある事をふと思い出した。

「ねぇ、ディレン…」

「ん?」

「ディレン、確か…前に言ったよね。一番私達に対して寛容な場所を知ってるって。
だけどそこには絶対に行きたくないって。

――そこってドコなの?」

「………。

 あぁ、アレね…。結局、旅を続けるって事は変わらないよ。
俺があの時言ったのは傭兵稼業だったからさ…。

 おやっさんの態度は覚えてるだろ?

 あんな奴らばっかりだからさ。傭兵って。
だから俺達を受け入れてはくれるよ。
だけど本当に生きるか死ぬかの所さ。おやっさんとはずっと味方でいられたけど、
もし、傭兵になって俺とおやっさんが敵同士になったら、
おやっさんは何のためらいもなく俺を殺そうとしただろうしな。

 それは、ディアでも同じ事だよ。

 そんな中にいられるか?……無理だろ。だから行きたくないと言っただけ」

 ディレンはそう言って遠い目をした。昔の事を思い出したか、
それともラルヴァイの事を思い出したか。

 ディアは荷物をまとめながら、確かにその場所にいられないかもね…と呟いた。
彼女はそこまで冷めた考え方は出来ない。

「結局。俺達は、受け入れてくれるどこかを捜していくしかないよ。

――きっとあるさ…。

 じいさんだってシィアさんだって、あのサティアの村があったんだ。
俺達にだってそう言う場所がきっとあるさ……」

「そう…ね……。あるよね、きっと……」

 ディアも少しだけ希望を持ったような表情で、よいしょっと立ち上がった。

「じゃぁ、行こうか」

「うん…」



 早朝。

 人知れず内に2人はロウディスの街を発った。
2人を乗せた馬は東へと静かに進んで行き、
そして二人は地平線に消えていった。



 旅は再び始まった。

 その旅の終着は、まだ見えない。

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[ 2004/06/28 02:44 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)
プロフィール

Author:さなかおる
百四十という数字が私に何かをもたらしそうな気がして。

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